4月からリモートワークが続いている。といっても数年前から特定のオフィスを持たず、シェアオフィスと自宅の半々で仕事をしてきたので、仕事環境としてはそれほどストレスを感じることなく2カ月が過ぎた。オンライン会議にも最初は少なからず抵抗があったが、今では、そこに映る重力に逆らえなくなった我が面貌を見ることを除き、大方慣れてきた。
以前と変わったといえば、ラジオをよく聴くようになったことである。本を読んで映画を観て、あれしてこれして、それにラジオが加わるとけっこう時間が足りない。毎週欠かさず聴く番組は10くらいだが、そうした番組もパーソナリティーの自宅からオンライン放送することが多くなった。吉田拓郎や坂崎幸之助や桑田佳祐が自宅で生ギターを弾いたり、村上春樹が自宅のターンテーブルで自前のレコードをかけたりする。こういう状況になっていなければ生まれなかったグレイトな価値。
聴くのはほとんどが音楽番組なのだが、NHKで毎週金曜に放送される「高橋源一郎の飛ぶ教室」も初回から熱心に聴いている。前半で今おすすめの本を朗読・解説し、後半でゲストとその本のことや今起きていることを語り合う、という1時間番組である。
ある放送で、イタリアの作家のパオロ・ジョルダーノの「コロナの時代の僕ら」が紹介されて、僕も早速読んだ。放送でも引用されていたが、それだけで十分に読み応えのある一編のエッセイになっている長いあとがきに、「今からもう、よく考えておくべきだ。いったい何に元どおりになってほしくないのかを」とある。「コロナは我々の文明をレントゲンにかけている」のだと。僕も今、これからの生活や仕事のやり方も含め、そのことについて考え続けている。
この番組もご多分に漏れずあるときから、高橋源一郎の鎌倉の自宅からオンライン放送されるようになった。源一郎さんは「不安もあるけど、何事も新しいことをやるのはワクワクするね」と言った。ちょうどそのとき僕は、引き受けている広報関連の講座がオンライン講義に切り替えられるタイミングで、初めてのことに一抹の不安を抱えていた。PCに向かって2時間も話すことができるのだろうかと。だからその言葉を聞いて、そうか、僕も未知の体験を楽しめばいいんだ、と気が楽になった。オンラインになってからの番組では少なからずトラブルがあったが、源一郎さんはそれをも受け入れて変化を楽しんでいるように思えた。
さて、いざオンライン講義をやってみると、案外楽しい。なんか不思議と通常の講義よりもうまく話せたような感じもした。話そうと思っていたことをあまり取りこぼさずに落ち着いて話せたというか。質問もたくさんあって双方向性も十分享受できたような気がする。いつもは受講者の方々を前にして多少興奮気味になっているのか、用意した話を無視してその時思いついた話をしてしまう傾向がある。それはそれでいい時もあるけれど、やっぱり計画通りに物事が進むのは気持ちがいい。
なんでも先入観なく自分なりにやってみればいいということをあらためて実感できたのは、この不自由な環境下におけるちょっとした収穫でした。
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