経営を強くする広報コンサルティング|株式会社プラスワンコミュニケー ションズ

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2012.10.15

「これ以上は増やせないし、これ以上は削れないという地点」

ハルキストというわけではないが、村上春樹の本は高校生のころから読んでいる。最初に手にしたのは「1973年のピンボール」の文庫本だった。デビュー作の「風の歌を聴け」には、少なからず影響を受けた。ホットケーキのコカコーラがけは食べたことがないけれど、冬の海岸でダッフルコートにくるまって缶ビールを飲んだし、ギャル・イン・キャリコの入ったマイルス・デイビスのアルバムも聴いた。その後は、新刊が出るたびにだいたい読んでいる。

「1Q84」はこのあいだ文庫が出たのを機会にやっと手に取ったのだが、夏休みに乗った飛行機で読んでいたら、となりの席に座った美しい女性が「同じ本を読んでますね」と美しい声で話しかけてきたのにはびっくりした。となりに美しい女性が座ってカバーがかかった文庫本を開いたときに、実は自分も「同じ本を読んでいたらおもしろいな、いや同じ本を読んでいそうな気がする」と考えていたからだ。「こんなこともあるんですね、ははは」などと全く気が利かない返答をしながらも、ちょっと楽しい気分になった。そのあとバーに飲みにいって、そんでもって、みたいなことはなかったです。

そんな「1Q84」の序盤に、主人公の一人である天吾が、女子高生ふかえりが書いた小説の書き直しを依頼され、文章を推敲するシーンがある。これがしびれる。元の原稿の理解しづらい部分に説明を加えたり、言い足りない部分を書き足したりして文章量が増えたものをブラッシュアップするときのくだりだ。

『次におこなうのは、その膨らんだ原稿から「なくてもいいところ」を省く作業だ。余分な贅肉を片端からふるい落としていく。削る作業は付け加える作業よりはずっと簡単だ。その作業で文章量はおおよぞ七割まで減った。一種の頭脳ゲームだ。増やせるだけ増やすための時間帯が設定され、その次に削れるだけ削るための時間帯が設定される。そのような作業を交互に執拗に続けているうちに、振幅はだんだん小さくなり、文章量は自然に落ち着くべきところに落ち着く。これ以上は増やせないし、これ以上は削れないという地点に到達する。エゴが削り取られ、余分な修飾が振い落とされ、見え透いた論理が奥の部屋に引き下がる。』(村上春樹著「1Q84 BOOK1 前編」新潮文庫より)

わたしたちが日々取り組んでいるプレスリリースなどの広報資料の文章も、「これ以上は増やせないし、これ以上は削れないという地点」を目指して作成していくものである。

営業部門や製品部門などニュース素材のオーナーからの情報提供が「増やせるだけ増やすための時間帯」である。情報提供者は、自分たちの仕事の成果となれば、あれも言いたい、これも言いたい、となりがちだが、まずは背景説明や付随情報も含めて多くの情報を得てよい。そして「削れるだけ削るための時間帯」で、わたしたちは力を発揮する。この情報の価値に関係のないことは削除していく。そうすれば、会社の「エゴ」が前面に出たひとりよがりな宣伝文を作ってしまうことなく、記者・編集者に読んでもらえる文書に一歩でも近づける。

この削る作業こそが、広報担当者に求められる文章術である。プレスリリースなどの広報資料だけでなく、企画書や提案書の作成にも有効な技術だ。

ところで、話変わってついでに言うと、必要ないものはなくすという行為、もしくは本当にいるものだけを残すという行為は、国家レベルでいま求められているものである。国を運営する立場の方々におかれましては、自分や組織のエゴのために余分な修飾を積み重ねるのはやめて、見え透いた論理は奥の部屋にしまってカギをかけていただきたい。

ブルーハーツの古い歌を思い出しました。「いらないものが多すぎる~、いらないものが多すぎる~♪」 (「ザ・ブルーハーツ」収録 真島昌利作詞・作曲「爆弾が落っこちるとき」より)

*目黒広報研究所に投稿したブログを転載しています。

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広報・PR主導のコンテンツ駆動型コミュニケーション

わたしたちからのメッセージ

正確でわかりやすい情報を社会に発信することは、いまや企業の経営を強くする上で最優先に考えなくてはならないものとなりました。これは、民間企業だけでなく、組織の運営基盤という観点から大学をはじめとする教育機関や公共機関にもいえます。その一方で、メディアの多様化により情報発信の方法は手軽になりましたが、発信する情報の質がより一層問われる時代になったと感じます。

プラスワンコミュニケーションズの特徴は、この発信する情報の中身(コミュニケーションコンテンツ)をお客様といっしょに徹底的に考え、訴求シナリオを作り、戦略的なコミュニケーション活動の具体的な施策を立案できることです。


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