連休前半を利用して高杉良著「広報室沈黙す」(講談社文庫)を再読した。
本書は、大手損保「世紀火災」の新任広報課長木戸徹太郎が、会社とメディア・社会の狭間で悩みながら気骨をもって立ち向かう経済小説である。1984年の作品で状況設定が少し古いですが、広報の仕事をしている人であれば、経営陣や記者とのやりとりを通じて主人公にストレートに感情移入できておもしろく読めると思う。
さて、この物語の前半で、木戸が記者クラブで知り合ったE新聞島村記者に、広報のことならこの人に聞けと紹介された「広報の権化」、日本モーターズ江藤東京広報部長を訪ねるシーンがある。
江藤は「広報マンの条件とでもいったもの」をしたためたペーパーを用意してくれている。
以下に引用して紹介します。
①誠実で努力家で勉強家であること=こうほう(広報)を逆にしたのがほうこう(奉公)であり、社会に対する奉公が広報の基本であると考える。
②自分を捨てる覚悟を常に持っていること=いつ会社を辞めても、というぐらいの覚悟をもっていなければ、いい仕事はできない。
③知恵才覚と気配りのできる人=広報マンは態度がぞんざいでは困る。
④忍耐心が必要である=広報の仕事をしていると中傷や冤罪が多いが、それらは広報マンの宿命であり、耐えなければならない。
⑤失敗を恐れてはならない。
⑥感謝の気持ちを忘れてはならない。
⑦趣味を持つことが大切だ=さまざまな問題が頻発したときなど心の切り替えができなければ、陰々滅々の生活になってしまう。
⑧広報の王道を歩んでいくべきだ=一人の記者を味方にするために嘘をついたり他者の悪口を言ったりしても、そのような広報は成功しないだろう。
⑨何より健康が大切だ=広報マンは誰しも激職だと思うが、広報の仕事をしていて病気にでもなると、いいことは言われないものだ。
⑩家庭を大切にする=奥さんは一番の理解者であり、打算がなく率直に忠告し、批判してくれるはずだ。
⑪人生の師匠を持つことが大切だ=妻にも仕事仲間にも話せないようなこともあるかと思うが、そのような時に率直に相談でき、時には厳しく叱正してくれるような師匠がいなければ広報という仕事はやっていけないのではないかと思う。
ほかにも広報の要諦といえそうなできごとが物語のところどころで出てきます。10年ぶりに読みましたが、楽しめました。
*目黒広報研究所に投稿したブログを転載しています。